「マリー・アントワネット」舞台裏と豪華衣装の裏側。パリ郊外、ブライ・シュル・マルヌにある広大なスタジオでは、時計の針が1770年代に戻っていた。金箔を貼った家具、花で飾ったカーテン、いたるところに大理石を使った豪華な装飾が、サウンドステージを埋め尽くしている。「マリー・アントワネット」はルイ14世に嫁ぎフランス王妃となったフランス革命前のマリー・アントワネットを描く。
「マリー・アントワネット」とは
マリー・アントワネットは、飢えた大衆に「パンがないならお菓子を食べればいいじゃない」と、ケーキを食べるように勧告したことで有名だが、実際はマリー・アントワネット自身の言葉ではないことが判っている。
しかし、映画では悪役や軽薄な者として描かれていると語るのは、イギリスのアン女王に焦点を当てた「女王陛下のお気に入り」でアカデミー賞にノミネートされた脚本家デボラ・デイビス。
デボラ・デイビスは「マリー・アントワネット」で製作、共同脚本、製作総指揮を務めている。
エミリア・シューレ演じるマリー・アントワネットは、オーストリアの貴族で、まだ少女のうちに将来国王となるルイ・オーギュスト・ド・ブルボン(ルイ16世)に嫁いだ。
彼女の目的はただひとつ、跡継ぎを産むことだったが夫は7年間も彼女に触れることを拒んだ。
また、マリー・アントワネットはフランス王ルイ15世(ジェームズ・ピュアフォイ)のお気に入りの公妾だったデュ・バリー夫人(ガイア・ワイス)を疎外し、宮廷の独特な習慣を崩壊させたことで有名だ。
デボラ・デイビスは「マリー・アントワネットは14歳半で呆然としたウサギのようにやってきた。みんなは彼女を”反乱を起こした小さなオーストリア大公女”という目で見つめた。彼女には勝ち目がなかった。しかし、マリー・アントワネットは、非常に意志の強い気骨のある女性の長い家系に生まれ、彼女たちはそれを引き受けたのです」と言う。
エミリア・シューレは「ルイ15世は彼女を快く受け入れてくれた。”彼女に手を出そうとするまでは”いい人でした」と、マリー・アントワネットがフランスの宮殿で過ご始めた当初に経験した多くのトラウマの一つをほのめかしながら語った。
これまでのマリー・アントワネットの描写は、「この人が感じたであろうトラウマや見捨てられたという感覚を探っていない。マリー・アントワネットは”反逆者”だった」と、平等と自由のために戦った故ダイアナ妃と比較しながら表現した。
ピート・トラビス監督は「歴史作品は通常、男性が主人公ですが、このシリーズでは男性が作り上げた世界で女性が強い意志を持つことで作品自体を現代的にしている。非常に強い女性2人の、説得力があり、刺激的で、危険で、セクシーですらある関係です」と、マリー・アントワネットとデュ・バリー夫人の関係をからめながら語った。
さらに、物語では「デュ・バリー夫人とルイ15世の愛の物語」も記されている。
ルイ15世は58年の治世の末、”最愛の人 “と呼ばれ、汚職と放蕩の罪で告発され、恋に落ちて宮廷に連れてきた元娼婦デュ・バリーとの関係で世論と戦い、その人気を大きく失墜させた。
ルイ15世役を演じたジェームズ・ピュアフォイは、ルイ15世は「規則を破り」「極めて風変わりな生活」を送った人物だと語る。
「デボラ・デイビスの脚本を初めて読んだとき、”みんな狂っている”と思いました。でも、彼が毎朝起きると、150人もの人が彼の寝室に来ていたことを想像してください。と言う。
完璧な形のヴェルサイユ庭園を観察して、彼はルイ15世が「何事も適当に済ませることに慣れた、完全な支配者であった可能性が高い」ことを理解した。
マリー・アントワネットが現れ、物事がおかしくなり始め、混沌としたパニック状態になった。
当時「エチケット」と呼ばれていたフランスの礼儀作法は、「マリー・アントワネット」と同じチームが制作したシリーズ「ヴェルサイユ」で描かれた太陽王ルイ14世によって生み出された。
「ヴェルサイユ」ではルイ14世がエチケット(礼儀作法)を発明したことを紹介し、「マリー・アントワネット」では王妃がヴェルサイユを一石一石破壊し、自分の人生を手に入れるためにどう行動したかを描いています。解放の物語として、とても力強いものです。」と、プロデューサーのチェリ氏は語っている。
このシリーズでは、マリー・アントワネットの側近で、クレオールの名バイオリニスト兼指揮者のジョゼフ・ブローニュ・シュヴァリエ・ド・サン=ジョルジュなど、あまり知られていない実在の人物も紹介されている。
「彼はマリー・アントワネットの親友で、黒人ということでみんなショックを受けたが、彼女は気にしなかった」とチェリ氏は言う。
セットと豪華衣装秘話
「マリー・アントワネット」はヴィリエ=シュル=マルヌのほか、ヴェルサイユ宮殿、フォンテーヌブロー宮殿、ヴォー=ル=ヴィコント城などでロケが行われた。
チェリ氏は「ヴェルサイユ」で、衣装やかつらを変えるだけで2時間近くかかることもあり、「マリー・アントワネット」では10分ごとに衣装替えをするため、その苦労は並大抵ではない。
ショーの衣装の多くは手作りで、その職人の中にはシャネルなどのオートクチュールメゾンで働く人もいる。
ドラマが多いフランスでは時代物の衣装が不足しており、イタリア、イギリス、スペインで生地を探し、染色してさまざまな色を作り出し、手作業でフェイクの刺繍を施したとのこと。
それぞれのカラーパレットを決め、少ない衣装で豊かな表情と効果を表現し節約したようだ。
「マリー・アントワネット」のセットは2ヵ月半かけて作られたが、解釈が重要なポイントになったという。
ひとつは、18世紀のヴェルサイユ宮殿が汚い場所だったということ。
「現在では、白と明るい金色で塗られ、とても清潔ですが、当時は2,500人から3,000人が常に住んでいたと考える必要があります」と言う。
チームは、マリー・アントワネットがプライバシーを確保するために避難した小さな居室も作り、ルイ16世が付き人や護衛に見られることなく王妃を訪問できるようヴェルサイユ宮殿内に作った廊下も復元した。
歴史学者でもあるデボラ・デイヴィスは、「私たちはいつも最後から始めるんです。彼女の死、拷問、残虐行為、そして彼女が近親相姦で告発された裁判、そして私にとっての喜びは、過去に戻って何も起こらなかったふりをすることができることでした。なぜなら、1770年から1780年までの革命のヒントが何もなかったからです。」と語る。
デボラ・デイヴィスがすでに執筆を進めている第2シーズンでは、マリー・アントワネットに対する女性蔑視のプロパガンダとみなすフランス革命に批判的ではなく、よりバランスのとれた光を当てることになるようだ。
「数世紀後も、マリー・アントワネットの地位は損なわれていない。彼女のダイヤモンドは近年行われたオークションで “何百万ポンド、何千万ポンド “で落札された。だから、当時の彼女の価値はもちろん、今日の彼女の価値もわかるでしょう 」とデイヴィス氏は語った。
「マリー・アントワネット」配信は?
「マリー・アントワネット」は8部構成となっており、「ヴェルサイユ」最終シーズン後、Canal+がデボラ・デイビスに執筆を依頼したことが発表された。
製作会社は国際的に配信する目的で英語で制作することを計画し、2021年にはBBCがシリーズを事前購入したことが発表された。
2022年10月31日にフランスCanal+で放送され、2022年7月にはオーストラリアのBBC Firstで配信。日本でのリリースについては未定だが、国際的配信を目的としているとのことで日本配信まではそう遠くはないかもしれない。