【マードック家殺害事件: 法曹一族の裏の顔】ネタバレ解説。本作は、アメリカ・サウスカロライナ州の名士として著名な法曹一族マードック家を巡る殺害事件に迫った、全3話構成のドキュメンタリードラマです。何不自由のない生活を送る地元の名士は次々と怪奇な殺害事件に見舞われますが、その裏にはアメリカに根付く独特の社会システムが関係していました。
マードック家殺害事件とは
2015年7月、アメリカ・サウスカロライナ州の幹線道路
10代の青年スティーブン・スミスの遺体が路上で発見されます。スティーブンは、サウスカロライナ州で最も著名な法曹一族マードック家の長男バスター・マードックの同級生で、ゲイであることを公言していました。
住民の噂では、ゲイであるスティーブンと親しくしていることで変な噂が立つことを嫌ったバスターが犯行に至ったとのことでしたが、マードック家は関与を否定しています。なお、遺体の状態からスティーブンの死は交通事故ではないことが判明しており、一度は立ち消えになった捜査も2021年から再び再開されています。
2018年2月、アメリカ・サウスカロライナ州マードック家の敷地内
マードック家の家政婦グロリア・サターフィールドが、犬に足を取られて階段から転げ落ち、後に死亡しました。遺族が受けた報告によれば、マードック家の家長アレックがグロリアに話しかけると、彼女が犬につまづいて階段から転げ落ちたとのことでした。
しかし、マードック家の土地の管理者は、実際にはその場にアレックの姿はなかったと話しています。同年、グロリアはアレックがオピオイド中毒に陥りベッドの下に薬を隠しているのを発見したため、次男ポールにその旨を打ち明けたところ、ポールはアレックを見張るようになっていました。
また、アレックはグロリアの死の1ヶ月前に民間保険の保険証券を取得しており、彼女の死により430万ドルを受け取っていますが、未だグロリアの死因の調査は続いています。
2019年2月、アメリカ・サウスカロライナ州
マードック家の次男ポール・マードックは、酩酊状態でボートを運転して事故を起こし、同乗していた19歳の女性マロリー・ビーチを死亡させてしまいます。3つの重罪で起訴されたポールの血中アルコール濃度は飲酒運転の基準値を3倍も超える数値だったものの、飲酒検査を受けることも逮捕されることもありませんでした。
その後、ポールが逮捕されない理由にマードック家が警察に対して圧力をかけた可能性があると考えたSLED(サウスカロライナ州法執行部)は、マードック家の金融不正行為の疑いに関する調査を始めます。
マードック家に財務情報の引き渡しを強制するための公聴会を2021年6月10日に予定しており、母マギーは請求書の未払いに気づいたため法廷会計士を雇っていました。
2021年6月7日、アメリカ・サウスカロライナ州
マードック家の次男ポールと母マギーが、狩猟小屋の近くにある犬小屋の外で亡くなっているのが発見されます。911に通報をしたのは、父アレックでした。
アレックは両親の元から帰宅したら2人が亡くなっていたと話しましたが、生前にポールが携帯で撮影していた動画にはアレックの声が入っていました。
本作の背景にはアメリカに色濃く残る社会システムが関係
現代にも残る名士が権力を持つ社会システム
【マードック家殺害事件: 法曹一族の裏の顔】では、実際に起きたサウスカロライナ州の名士マードック家を巡る5人の殺害事件について描かれています。実はアメリカにはこうした名士が権力を握る地域が未だ多く存在しており、田舎町ならではの閉鎖的な環境が生み出す根深い問題が明るみになった瞬間でもあり、全米の注目を集めました。
物語の舞台はアメリカ・サウスカロライナ州ハンプトン郡を中心とする田舎町ですが、このように1つの町や州単位で何らかの事業で成功を収めた一族が権力を持ち、警察や知事などとも癒着しているため一族にとってはまさに無法地帯と化しているのです。
とはいえ、一族があまりに強大な権力を持っているため文句を言える者などいません。それどころか、住民は仕事や生活面などで一族から何かしらの恩恵を受けていることも多く、一族のことに関しては黙認する他ないのでしょう。
マードック家とサウスカロライナ州の関係
マードック家もそうした権力を握る名士のうちの1つであり、サウスカロライナ州で巨万の富を築いた法曹一族として最も有名です。マードック家は全員が法務官で、一族で法律事務所を経営していました。
1世紀以上もマードック家が地域の法そのものかつ秩序であり、実際サウスカロライナ州の全ての民事訴訟から刑事訴訟までをマードック家が担当していました。
そのためマードック家は独善的かつ強大な影響力を持つようになり、法の番人として自分たちの都合の良いよう自由に結果を操ることができたのです。2005年に事務総長の職から離れたマードック家でしたが、4代目アレック(ポールの父)は事務局でボランティアとして働きながら警察と密接な関係を保っていました。
アレック・マードックの現在
本作が製作された2023年現在、アレック・マードックは金融詐欺、薬物、殺人を含む合計106件の大陪審の刑事告発に直面しており、現在は投獄されています。ハンプトン郡大陪審から3つの告発、コルトン郡大陪審から4つの告発、残る99の告発は州大陪審からのもので、さらには3つの訴訟の被告です。
現在アレックは、妻マギーと次男ポール殺害事件の裁判の最中ですが、2019年のマロリー・ビーチ死亡事件を巡って遺族から過失致死訴訟を起こされており、年内に裁判が予定されています。