「殺人事件ファイル ニューヨーク」(Netflix)第1話・第2話ネタバレ解説と詳細。「LAW&ORDER」のクリエイターが贈る、実録犯罪ドキュメンタリーシリーズです。
アメリカ・ニューヨークの殺人課の刑事や検察官が、過去に担当した最も難しかった殺人事件を振り返り再検証するといった内容で、まさにLAW(警察)とORDER(検察)を描いた「LAW&ORDER」のドキュメンタリー版と言えます。
第1話:カーネギー・デリ虐殺事件
2001年5月10日、事件発生
2001年5月10日。アメリカ出身の女優ジェニファー・スタールが住むカーネギー・デリの最上階にあるアパートにて、3人が死亡して2人が重傷を負う銃撃事件が発生します。
死亡したのは、ジェニファー・スタール、スティーブン・キング、チャールズ・トレイ・ヘリウェルの3人。助かったのは、アンソニー・ベイダーとローズモンド・デインです。
5人はいずれも銃で頭を撃たれており、それが致命傷となりました。アンソニーとローズモンドも頭を撃たれはしたものの、アンソニーは頭蓋骨に沿って弾が抜け、ローズモンドは犯人の姿を見ようと顔を上げたことで弾道がズレて命拾いしました。
アンソニーは犯人が出て行くまで動かずにじっと待ち、出て行ったのを確認してから警察に通報しました。
被害者5人の関係性とジェニファー・スタールの商売
被害者5人は、ジェニファー・スタールを通じて知り合った演劇関係者です。ジェニファーは1987年の映画「ダーティー・ダンシング」に出演しており、晩年は自身の部屋にスタジオを設けるほど音楽活動に精を出していました。
そうした背景から顔が広いうえ、元より人と人を繋ぐのが好きだったことから幅広い交友関係を持っていたようです。実際、生存者のアンソニーはジェニファーから、もう1人の生存者ローズモンドと亡くなったトレイを紹介されています。
ローズモンドとトレイは婚姻関係で、トレイはローズモンドの家族に会うためにジェニファーの家に滞在していました。そこに美容師であるアンソニーが呼ばれ、彼らの髪を切る代わりにマリファナを貰う予定でした。
というのも、ジェニファーは作品のために高級マリファナを販売して資金を稼いでいたのです。スタジオでマリファナを販売し、友人とレコーディングを楽しんでいました。
ジェニファーの取引相手は友人や業界の人間で、中にはアメリカの最長寿番組「サタデー・ナイト・ライブ」のキャストもいたとのこと。とはいえ誰彼構わずに取引するのではなく、相手をよく吟味して警戒を怠りません。
そのためジェニファーのアパートを訪ねるのは友人だけでしたが、来客が続いて対応しきれない時には友人にドアの管理を任せていました。事件当日は、スティーブンがドアの対応をしていました。
犯人の正体と動機
ジェニファーら5人を死傷した犯人は、アンドレ・スミスとショーン・サリーという2人の男性です。捜査は生存者のローズモンドがショーンの顔と名前を覚えていたことや、カーネギー・デリの防犯カメラに彼らの姿が映っていたため、比較的スムーズに進みました。
NY市警察はショーンがコンサートの設営スタッフだったことを突き止め、彼の知り合いを当たり、もう1人の男がドレーことアンドレ・スミスであることも暴きます。NY市警察がアンドレの彼女を訪ねた時に彼の姿はありませんでしたが、警察官の1人が名刺を置いていったことが功を奏します。
2001年5月20日、事件から10日後。NY市警察にアンドレから連絡が入り、自ら捜査への協力を申し出たのです。
アンドレは己の賢さに自信があったようで、真実を隠せると信じ、あえて協力的な姿勢を見せて指紋の採取にも協力しました。被害者を拘束していたテープから自分の指紋が出ても否定を続けていたアンドレも、取り調べの担当が女性刑事に変わると、態度が一変します。
女性刑事に心を開き始めたアンドレは、やがて“子供のオムツのためにやった”と自白しました。アンドレが自白した事件の全貌は、以下の通りです。
- ショーンとはニューアークで出会った
- ショーンは金に困っており、マリファナの取引場を狙う計画をアンドレに持ちかける
- ジェニファーからドラッグと金を奪う予定だった
- ショーンがジェニファーを脅して金を詰めさせ、サリーは他の4人を拘束していたところ、突然ショーンが皆を撃ち始めた
2001年7月14日、事件から2ヶ月後。ショーンを追っていたNY市警察は、アメリカの全国放送の番組でショーンと事件のことを放映し、情報提供を求めました。
すると、放映から20分後には続々と情報提供の連絡が入り、ついにショーンの居場所を突き止めます。そこはニューヨークから2000kmも離れた、フロリダ州マイアミにあるホームレス施設でした。
すぐにマイアミ警察が現地に向かい、警察犬でショーンを追い詰めて逮捕します。事件の全貌を正直に話したアンドレに対して、ショーンはジェニファーの殺害だけを認め、他4人の殺害に関してはアンドレに責任を押し付けました。
しかもジェニファーの殺害も発砲は事故だとして、責任逃れをしようとしました。しかし、重罪謀殺の起訴においては故意かどうかは関係ないうえ、誰のせいで死んだかどうかも関係なく殺人罪に問われます。
強盗に加担したのであれば引き金を引いた人と同罪になるため、ジェニファーの殺害を認めた時点でショーンは第2級殺人罪に問われることになります。
事件から1年後。アンドレとショーンの裁判は、2人を同時に裁くという異例の形で行われます。
これは生き残った被害者のストレスを軽減するためであり、事件を2度も思い出させないように配慮してのことでした。裁判は数週間に渡り、アンドレとショーンは懲役120年の有罪判決を下されました。
第2話:セントラルパークの男性刺殺事件
1997年5月23日、事件発生から逮捕まで
1997年5月23日。セントラルパーク・ウエストにて、44歳の男性マイケル・マクモローが刺されて死亡する事件が発生します。
マイケルは不動産会社に勤め、マンハッタンで母と暮らしていました。誰に対してでも感じがいい反面、アルコール依存症に悩まされていました。
遺体には50回以上も刺された痕跡があり、切り開かれた腹部から腸が出た状態でセントラルパークの湖に浮かんでいるのを、NY市警察が発見します。公園から湖に続く道には12〜15mに渡って血痕があり、見晴台の側には血溜まりがありました。
この事件は、事件当日にマイケルと一緒に居た15歳の少女ダフネ・アフデラが通報したことにより、発覚しました。ダフネによると、マイケルを殺害したのは恋人のクリストファー・バスケス(通称:クリス)であり、自分はあくまで“目撃者”とのことでした。
すぐにNY市警察は捜査を開始し、ダフネとクリスの家宅捜査を行うと、クリスの部屋からマイケルの血がついたナイフが発見されます。これが決定的な証拠となり、クリスはマイケル殺害の容疑で逮捕されました。
その後、ダフネも同様に逮捕されます。しかしダフネはクリスと異なり、事件に関与した証拠が彼女の供述しかなく、捜査は難航します。
犯人の人物像
〜ダフネ〜
ダフネは”マジェスティック”と呼ばれる高級マンションに住む15歳の”億万長者の娘”で、父は有名な実業家、母はフランス人モデルです。ダフネは養子で、何不自由のない暮らしを送っていました。
ところが、コロンビア・グラマーという私立中学校に入って歳を重ねるうちに好戦的な性格に変わり、素行の悪さから中学2年生で退学させられています。その後はドラッグや酒などに走り、リハビリ施設を経てロヨラ・スクールという高校に入学しました。
入学後も態度を改めるどころか悪化を辿り、規則も門限もマナーも一切守りませんでした。
〜クリス〜
クリスは私立学校に通う15歳の少年で、彼を逮捕した警察官が12歳に見えたと話すほど、非常に幼い見た目をしていました。スパニッシュ・ハーレムで生まれ、イースト・ハーレムの”普通の家”の出身です。
クリスは教会の隣の家に住み、ミサの侍者をしており、近隣住民からの評価も高い典型的ないい子でした。実際、近隣住民はクリスの印象について、礼儀正しく、親切で素直な性格だったと証言しています。
両親は離婚していて母に育てられたものの、両親の懸命なサポートのおかげで私立学校に通っていました。ところが、小柄で内向的な性格だったことからいじめられており、ハーブ(弱虫)とのあだ名をつけられていました。
そんな正反対の2人には”ローラーブレードが得意”という共通点があり、セントラルパークで出会い、事件の2〜3ヶ月前から一緒に遊ぶようになります。そして、事件当日に恋人関係へと発展しますが、ダフネは同年代よりも経験豊富ということもあって、クリスは完全にダフネの言いなりでした。
事件当日の流れと判決
1997年5月24日、逮捕の翌日。ダフネとクリスの罪状認否が行われ、2人は無罪を主張しました。
NY州法では、罪状認否が行われてから起訴するまでに144時間しか拘留ができず、その間に起訴しなければ被告人は釈放されなければなりません。そのため、NY市警察は必死に証拠を集め、ダフネの部屋からマイケルの財布と身分証を発見します。
これでダフネとクリスがマイケルと一緒に居たことは立証できるのですが、現場に居合わせただけでは罪にならないため、ダフネがマイケルを殺害した証拠が必要となります。なかなか証拠が集まらずに釈放まで24時間を切ったその時、ダフネは弁護士を通じて”クイーン・フォー・ア・デイ”を希望したのです。
これによりダフネは弁護士同伴で刑事と面談を行い、事件当日の流れが明らかになります。
1997年5月23日、事件当日。ダフネとクリスは酒を飲んでローラーブレードで遊んでいたところ、ストロベリー・フィールズで被害者マイケルたちの集団と出会します。
マイケルには仕事後にセントラル・パークで酒を飲む仲間がおり、その日もいつものように仲間と酒を飲んで楽しんでいました。そこへ警察官がやって来てマイケルたちを追い払いますが、マイケルは酒を求めてダフネとクリスを追い、3人で湖のほとりにある見晴台で酒を飲んでいました。
やがてダフネとクリスは裸になって湖で泳ぐも、あまりの寒さに凍えてしまいます。寒さに震えるダフネを見たマイケルが彼女を暖めようとすると、それを見たクリスがキレてマイケルをナイフで刺し始めました。
ここまでは1度目の面談でダフネが語った内容で、ダフネはあくまで自分は目撃者だという姿勢を貫きました。しかし担当刑事はダフネの話に納得がいかず、追加の面談を望み、引き続きダフネと話す機会を得ました。
そこで担当刑事は、被害者マイケルの右ふくらはぎにできた4つの丸いアザについて問い詰め、ダフネから決定的な証言を聞き出します。それはローラーブレードによってついたアザであり、ダフネは友人を守ろうとしてマイケルを蹴ったことに加え、「私が蹴るとマイケルが倒れた、クリスがさらに刺した」と事件への関与を示唆する発言をしました。
こうしてダフネは検察と司法取引を行い、致死罪を認めてマクモロー殺害を謝罪します。その後、ダフネは出廷して自ら第1級致死罪を認め、クリスは裁判にて第1級致死罪の有罪判決を下されました。
これにて事件は解決しましたが、ダフネとクリスがマイケルを殺害した理由や彼との接点などについては一切語られず、謎は残されたままとなりました。
ディック・ウルフと次作について
「殺人事件ファイル ニューヨーク」は、「LAW&ORDER」を手掛けたディック・ウルフが製作総指揮を務めています。
ディック・ウルフは、「LAW&ORDER」シリーズ、「シカゴ」シリーズ、「FBI」シリーズも手掛けており、現在9シリーズを放送しているアメリカTV界の重鎮です。
これまでにディック・ウルフは主に地上波の番組を手掛けてきたものの配信サービスとは縁がなく、今回のNetflixでの実録ドキュメンタリーシリーズ以外だと、Amazon Prime Videoの刑事ドラマ「On call(原題)」だけでした。
また、意外にもディック・ウルフが実録犯罪作品に取り組んだことはなく、今回の「殺人事件ファイル ニューヨーク」が初の試みとなりました。
これよりディック・ウルフはNetflixと手を組み、次作の「殺人ファイル ロサンゼルス」の製作も決まっています。
「殺人ファイル ロサンゼルス」も全5話で構成され、各エピソードで異なる殺人事件を取り上げます。「殺人ファイル ロサンゼルス」は、2024年後半に配信予定です。
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