「アスンタ・バステラ事件」（Netflix）解説。スペインで実際に起きた中国人養子アスンタ・バステラ殺害事件を一部創作して描いたミステリードラマです。スペインのガリシア州サンティアゴ市で初の中国人養子を迎えた夫婦は、12歳になった娘アスンタを突如として失います。一見すると、アスンタは事件に巻き込まれたように見えるものの、夫婦の行動には不審な点が多く残されていました。
アスンタ・バステラ事件
2013年9月21日。
スペインのガリシア州。サンティアゴ・デ・コンポステーラ近くの車道の脇にて、12歳の少女アスンタ・バステラの遺体が発見されます。
遺体には争ったり引きずられた形跡はなく、丁寧に車道の脇に置かれていました。衣服は着ていたものの靴は履いておらず、手足にはロープで拘束されたような跡があります。
アスンタは中国出身で、記者のアルフォンソ・バステラと弁護士のロザリオ・ポルトの養子でした。アスンタは1歳に満たないうちにアルフォンソとロザリオに引き取られ、当時サンティアゴ市では初の中国人の養子となりました。
事件が発覚したのは、アスンタの両親が娘がいないとの相談を警察署にしに来て間もなくのことで、地元住民が少女の遺体を発見します。すぐにアスンタの両親は警察によって遺体発見現場に連行され、その遺体がアスンタであることを確認しました。
捜査開始
2013年9月24日〜25日
アスンタの母ロザリオが、アスンタ殺害に関与した容疑で逮捕されます。とはいえ、この時点でロザリオがアスンタ殺害に関与した決定的な証拠はなく、警察は事件の解明を急ぎます。
間もなくして、アスンタの薬物検査の結果が出ました。アスンタの血中からは27錠分の向精神薬が検出されたうえ、向精神薬は毛髪からも検出され、アスンタは3ヶ月以上も向精神薬を飲まされていたことが判明します。
その後、モントウトにあるロザリオの別宅の家宅捜索が行われ、ロザリオとアルフォンソも立ち合います。娘を失った母とは思えぬ落ち着きっぷりを見せるロザリオに対し、アルフォンソは裁判長に盾付き逮捕されました。
2013年9月26日
ロザリオとアルフォンソは、それぞれの家の家宅捜索に立ち合います。しかし不審な点は、ロザリオがモントウトに取りに行ったというアスンタの水着の仕舞い方だけでした。
ロザリオはアスンタの水着を取りに行って家に戻ると、アスンタが居ないことに気づいたのにもかかわらず、その水着は丁寧に畳まれタンスに仕舞われていました。娘が居なくなった状況下で、水着を丁寧に畳んで仕舞うのは不可解だと裁判長は眉を顰めます。
ロザリオとアルフォンソの1度目の取り調べが行われ、それぞれ裁判長から厳しい追求を受けます。
最初にロザリオが呼び出され、ロザリオは薬の管理はアルフォンソがしていたことと、事件当日にアスンタもモントウトに連れて行ったとの新たな証言をしました。ただ、事件直後の証言と食い違ったのは、気が動転していたからだと説明します。
次に呼び出されたアルフォンソは、ロザリオの不倫が原因で離婚したものの、不倫相手と別れてうつ病を再発したロザリオの面倒を献身的にみていたことを認めます。また、ロザリオが処方されていた向精神薬を受け取りに行っていたことも認めました。
しかし、事件直後には自宅にあったパソコンが、家宅捜索時にはなかったことについてはわからないと供述しました。そして、ロザリオとアルフォンソは公判前拘束の命令が出たため、刑務所へ収監されます。
2013年9月28日〜30日
アスンタが事件当日に着ていた衣服から検出された体液を調べたところ、過去に性犯罪歴のあるマドリード在住の21歳カルロス・ムリーリョのものだと判明します。しかもアスンタは夏に自室にて何者かに襲われる被害に遭っていたことも、ロザリオの友人の証言から発覚しました。
ところが、ムリーリョには事件当日のアリバイがあり、アリバイの裏取りもできたため容疑者からは除外されます。ただし、アスンタの衣服にムリーリョの体液が付着していた謎は解けぬままでした。
ムリーリョの疑惑が晴れ、再びロザリオとアルフォンソにアスンタ殺害の容疑がかけられます。裁判長はロザリオとアルフォンソに2度目の取り調べを行い、状況証拠だけで彼らをアスンタ殺害の容疑で起訴する意向を固めました。
両親の裁判と判決
事件から2年後。アスンタ殺害に関するロザリオとアルフォンソの裁判が行われます。
2年経っても相変わらず新たな証拠は出ず、ロザリオとアルフォンソがアスンタを殺害したという決定的な証拠はありません。ロザリオとアルフォンソが何かを隠しているのだけは確かなようでしたが、いくら弁護士が自白を促しても2人が口を開くことはありませんでした。
そのため、ロザリオとアルフォンソの裁判は検察側が提出した状況証拠と、事件当日にアスンタがアルフォンソと一緒にいるところを目撃した少女の証言をもとに行われました。その結果、ロザリオとアルフォンソは共にアスンタ殺害の容疑で有罪判決を下されます。
しかし、アルフォンソがアスンタの死体発見現場のモントウトにいた事実は証明されていません。ロザリオは判決後に何度か自殺を図り、2020年11月18日に刑務所内で死亡しました。
ロザリオは亡くなるまでアスンタの死亡記事を出し、アスンタを偲び続けました。アルフォンソは2031年までの服役が決まっており、無実の証明のために刑期を全うすると話しています。