ネタバレ考察:ナンシーの異常性
ジョナサンの絵葉書の件からもわかるように、ナンシーには卓越した想像力がありました。だからこそ、ナンシーはたった数枚のキャサリンのセクシーな写真からここまでの物語を作り上げることができたのでしょう。
ただ、いくら息子ジョナサンの死に関係しているキャサリンが憎かったにせよ、あそこまでジョナサンとキャサリンの性的な一面を細かく描写する必要があったのかについては疑問が残ります。
息子をモチーフにした他者の物語ならともかく、息子そのものを登場させた物語に、あのような生々しい描写を書くのは異常性を感じざるを得ません。
“我が息子ジョナサンに捧ぐ”と見開きに記された本に、あんなにも生々しい息子の性的な一面を描くのは常軌を逸しています。それに、スティーヴンの回想シーンに出てくるナンシーは明らかに問題を抱えているようでした。
いつも不満げで、何かとスティーヴンに強く当たっていました。これはジョナサンが亡くなる前からだったので、彼女には元から怒りっぽい一面があったようです。
中でも、自分の思い通りにならないと極端に腹を立てる節があり、ジョナサンの元カノであるサシャの母エマとのやり取りは強烈でした。
「行きずりの人」では、サシャは叔母が亡くなったため帰国したと描かれましたが、真実は異なります。サシャはジョナサンと喧嘩別れしたようで、その内容を聞いたエマが激怒してナンシーに電話をかけてきたのです。しかしナンシーは悪びれるどころが、サシャが大袈裟なのではと言い返し、逆ギレして電話を叩き壊しました。
こうした子供じみた一面があったからこそ、ナンシーはあんなにも生々しい「行きずりの人」の物語を作り上げることができたとも考えられます。そもそも、ナンシーがエマから指摘されたジョナサンの非を認めなかったのも、きっとそれが彼女にとって理想的ではなかったから。
ナンシーはジョナサンの理想的ではない一面を知りつつ現実逃避して、勝手に理想の息子像をジョナサンに当てはめていたのかもしれません。そうだとすれば、「行きずりの人」に出てくるジョナサンが年上の女性に誘われた19歳の最も素敵な若者に見えるように描かれたのも納得できます。
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