【ギレルモ・デル・トロの脅威の部屋】キャスト情報とあらすじ・全話解説・レビュー。【パンズ・ラビリンス】(2007)や【パシフィック・リム】(2013)を手掛けた、ギレルモ・デル・トロが製作総指揮を務めるホラードラマシリーズです。1話完結のドラマシリーズで、全8話で構成されます。
【ギレルモ・デル・トロの脅威の部屋】あらすじ
奇妙な悪夢から紡ぎ出される、8つの恐ろしい物語。
背筋も凍るような恐怖を美しいビジュアルで描く、ギレルモ・デル・トロのホラーコレクション。
引用元:Netflix
【ギレルモ・デル・トロの驚異の部屋】は、全8話構成で、1話ごとに監督も異なるアンソロジー・ホラードラマです。まさにギレルモ・デル・トロ版の【世にも奇妙な物語】で、各エピソード毎に物語が始まる前にはギレルモ・デル・トロ監督自らストーリーテラーとして登場します。
1話「ロット36」
1話キャストと作品情報
- キャスト:ティム・ブレイク・ネルソン、セバスチャン・ロッシェ
- 原題:Lot 36
- 監督:ギレルモ・ナヴァロ
- 原作:ギレルモ・デル・トロ
1話解説レビュー
1話の監督は、【パンズ・ラビリンス】(2007)や【ナルコス】(2015)で知られるメキシコ出身のギレルモ・ナヴァロ、原作はギレルモ・デル・トロのオリジナルストーリー。キャストは、【マイノリティ・リポート】(2002)などで有名なティム・ブレイク・ネルソンと、【ヴァンパイア・ダイアリーズ】(2009)でマイケル役を務めるセバスチャン・ロッシェです。
主人公のニック(ティム・ブレイク・ネルソン)は亡くなった老人の貸し倉庫を買い取りましたが、その老人が生前に毎日倉庫へと通っていたのは、倉庫の奥に隠された空間にいる妹のためだったと考えられます。
正確には、妹のためというよりも彼女に宿した悪魔のためであり、それゆえに毎日欠かさず動物の死骸を生贄として捧げていたのでしょう。老人はナチ系からカルト宗教へと傾倒しており、悪魔との接触を望んでいた可能性が高いです。
通常、悪魔を召喚する目的は願いを叶えてもらうためであることが多く、召喚した悪魔の能力の高さに依存して叶えられる願いも変わってきます。上級の悪魔となれば報酬(差し出すもの)もそれ相応のものが求められますが、老人の場合は小動物だったことから召喚したのは低級の悪魔だったと推測することができます。
老人の死因は明かされませんでしたが、もしかすると老人が死亡したのは小動物の死骸という報酬に対して見合わない願い事をしたのか、何らかの契約違反があったのかもしれません。まさに”因果応報”を描いたストーリーで、薄情なニックに救いの手が差し伸べられなかったことや、もし老人が悪魔とのいざこざで死亡したのだとしても致し方ないようにすら感じました。
いくら借金苦に陥り余裕がないとはいえ、買い取った倉庫の持ち主が現れた際には金目のものではない家族の思い出の品くらい返してあげるべきですし、もしそうしていたらニックがあんな目に遭うこともなかったでしょう。倉庫の元借主の亡くなった老人も同じように、悪魔との契約を重視していれば亡くなることはなかったように思います。
2話「墓場のネズミ」
2話キャストと作品情報
- キャスト:デヴィッド・ヒューレット、ジュリアン・リッチングス
- 原題:Graveyard Rats
- 監督:ヴィンチェンゾ・ナタリ
- 原作:ヘンリー・カットナー著書「ロボットには尻尾がない」
2話解説レビュー
2話の監督は、【CUBE】(1998)で一躍有名となったカナダ出身のヴィンチェンゾ・ナタリ、原作はヘンリー・カットナー著書”ロボットには尻尾がない”。キャストは、デヴィッド・ヒューレットとジュリアン・リッチングスで、2人とも【CUBE】(1988)にも出演しており、デヴィッド・ヒューレットは監督のヴィンチェンゾ・ナタリと高校の同級生でもあります。
借金取りに追われる主人公のマッソン(デヴィッド・ヒューレット)は、大金持ちの墓場泥棒に入ると大規模な迷路に迷い込み、地下にある墓地へと辿り着きます。一見するとそこは神殿のような墓場ですが、墓場の下にまた墓場があるという多重構造こそ、この物語に秘められたメッセージなのかもしれません。
そもそも地下の墓場はマッソンが墓場泥棒に入った棺桶から迷路になって繋がっており、最近埋葬された人物は地下に埋葬されていた人物とは異教徒のようでした。つまり、墓場の下にも墓場があることは“人は死んでもなお堕ちていく”ことを表しており、それには宗教や立場も関係ないことを表していると推測できます。
事実、マッソンは借金取りに追われる日々を「今自分は地獄にいる」と考えていたものの実際には墓の下まで堕ちており、実はそのマッソンの考えは大きな勘違いであったことがわかります。1話のニックといい、最も簡単に人を狂わせるお金こそ本当の恐怖と言えるのかもしれません。
3話「解剖」
3話キャストと作品情報
- キャスト:F・マーリー・エイブラハム、グリン・ターマン、ルーク・ロバーツ
- 原題:The Autopsy
- 監督:デイビット・A・プライアー
- 原作:マイケル・シェイ著書「魔界の盗賊」
3話の解説レビュー
3話の監督は、【デッドリープレイ 復讐のプラトーン】(2013)や【ジャスティス 百戦錬磨の女】(2015)などのホラーやアクション映画を得意とするデイビット・A・プライアー、原作はマイケル・シェイ著書の”魔界の盗賊”。
キャストは、【スカーフェイス】(1984)のF・マーリー・エイブラハム、【グレムリン】(1984)で教員役を務めたグリン・ターマン、【ホルビー・シティ】(日本未放送)のルーク・ロバーツが名を連ねます。
タイトルにもあるように“解剖”シーンがメインとなる3話では、主人公で司法解剖官のカール(F・マーリー・エイブラハム)が死体を解剖するシーンが多く見られます。同じ空間での解剖シーンが続いても決して物足りなさを感じることがないのは、デイビット・A・プライアー監督による様々なトリックが効果を成しているからです。
例えば、未確認生命体に取り憑かれた男性ジョー(ルーク・ロバーツ)が自身の体を解剖するシーンでは上下逆さまのショットが使われていたり、ジョーの口も逆さまに撮影しており、こうしたミスマッチがジョーをより不快に見せています。ちなみに、上下逆さまのショットは【エクソシスト】(1974)でも使われた有名なトリックの1つです。
主人公が司法解剖官ということもあり、解剖が始まってからは終始グロテスクでモザイクなしのリアルさには思わず目を背けたくなったほど。それにしても解剖シーンがメインの作品は珍しく、最初こそ地味な作品なのかと少し肩を落としましたが、ラストに向けての怒涛の展開には釘付けになりました。
4話「外見」
4話キャストと作品情報
- キャスト:ケイト・マイクッチ、カイリー・エヴァンス、マーティン・スター、ダン・スティーブンス
- 原題:The Outside
- 監督:アナ・リリ・アミリプール
- 原作:エミリー・キャロル著書Web漫画「Some Other Animal’s Meat」
4話の解説レビュー
4話の監督は、【ザ・ヴァンパイア 残酷な牙を持つ少女】(2015)で長編映画監督デビューを果たしたアナ・リリ・アミリプール、原作はエミリー・キャロル著書のWeb漫画”Some Other Animal’s Meat”。キャストは、ステイシー役をケイト・マイクッチ、ジーナ役をカイリー・エヴァンス、キース役をマーティン・スター、アログロのCMに出演する男性役をダン・スティーブンスが演じています。
主人公の地味な銀行員のステイシー(ケイト・マイクッチ)は、職場の華やかな女性の輪に入りたいがために常軌を逸した行動に出ましたが、そもそも彼女は常に自身の中に潜む“狂気”に悩まされていました。最終的にステイシーは理想の美貌を手に入れ、憧れだった職場の女性たちの輪の中心的な存在となったもののその目は笑っていませんでした。
これは、ステイシーのような“狂気”は大小の差こそあれど誰しもが持つ悩みであることを、かつて彼女が没頭していたテレビ画面を通して視聴者に訴えているのでしょう。
これまではずっと家でテレビに没頭し、美を手に入れるために唯一の味方だった夫をも殺害して大好きな剥製にしてしまったステイシーが、今度はテレビの出演者として視聴者に「あなたならどうする?」と問いかけているように感じました。己の理想をどこまで追求するのか、そのためなら大切な家族や友人の命までも売るのか、色々と考えさせられる作品です。
5話「ピックマンのモデル」
5話キャストと作品情報
- キャスト:ベン・バーンズ、クリスピン・グローヴァー
- 原題:Pickman’s Model
- 監督:キース・トーマス
- 原作:H・P・ラヴクラフト著書「ピックマンのモデル」
5話の解説レビュー
5話の監督は、【炎の少女チャーリー】(2022)のキース・トーマス、原作はH・P・ラヴクラフト著書の”ピックマンのモデル”。キャストは、「ナルニア国物語」シリーズで有名なベン・バーンと、【バック・トゥ・ザ・フューチャー】(1985)でジョージ・マクフライ役を務めたクリスピン・グローヴァーです。
芸術大学に通う将来有望なウィル(ベン・バーン)は、新入生のピックマン(クリスピン・グローヴァー)の”腐敗”をテーマにした絵によって人生を狂わされていきます。しかし、このピックマンの”腐敗”の絵が力を持っているというよりは、彼の絵に描かれている“人の中に渦巻く闇”こそが、ウィルを始めとする人々を追い詰めていったのでしょう。
元より人間は誰しも闇の部分を抱えているものの直視しようとはせず、思わず目を背けてしまいますが、ピックマンの絵にはその直視したくない闇の部分が明確に描かれています。通常なら隠しておきたい”人の中に渦巻く闇”を堂々と表現するピックマンの絵は、人々に恐怖と共に羨ましさすら感じさせるのかもしれません。
そのため、闇とは正反対の”美”のみを追求してきたウィルはピックマンの絵に強く惹きつけられ、自ら”闇”をピックマンから引き継ぐことになってしまいました。ピックマンの絵に異変を感じ取りながらも、つい見てしまうウィルの怖いもの見たさはまさに人の性そのもので、物語により現実味を感じました。
6話「魔女の家での夢」
6話キャストと作品情報
- キャスト:ルパート・グリント、ジーナ・デイヴィス、イスマエル・クルス・コルドバ
- 原題:Dreams in the Witch House
- 監督:キャサリン・ハードウィック
- 原作:H・P・ラヴクラフト著書「魔女の家の夢」
6話の解説レビュー
6話の監督は、【トワイライト〜初恋〜】(2009)のキャサリン・ハードウィック、原作はH・P・ラヴクラフト著書の”魔女の家の夢”。キャストは、「ハリー・ポッター」シリーズでロン役を演じたルパート・グリント、【偶然の旅行者】(1989)のジーナ・デイヴィス、【ロード・オブ・ザ・リング: 力の指輪】(2022)でアロンディル役を演じるイスマエル・クルス・コルドバが務めます。
主人公であるウォルター(ルパート・グリント)の双子の妹が、亡くなる際に連れ去られた”リンボ”という場所は、辺獄のことです。
つまり、地獄に行くほどではないけど天国行きとも決まっていない人々を閉じ込めておく場所のことで、ウォルターの妹は亡くなる際に死を怖がったためにリンボへと連れ去られました。魔女のギザイアがリンボに居たのは、生前の彼女が人々を救う薬草療法士だったからであり、冤罪で魔女裁判にかけられたが故に本当の魔女になってしまったものと考えられます。
また、本作はH・P・ラヴクラフト著書の”魔女の家の夢”を原作としていますが、”魔女の家の夢”は以前にもスチュアート・ゴードン監督による【魔女の棲む館】(日本劇場未公開)として映像化されています。前後の物語こそ異なるものの、人間界に戻って人をいたぶりたいという欲望に突き動かされる魔女と人面ネズミという部分は同じです。
冒頭のウォルターによるナレーションで「ハッピーエンドを約束する」と話していたのが、実はウォルターにとってではなく、彼の体を乗っ取った人面ネズミにとってだったとは驚きました。
確かにその直前にはこの物語には2人の男”俺”と”俺”が登場するとも話しており、ウォルターだけではない何かが登場することは示唆していましたが、まさかウォルターが体を乗っ取られることに対する伏線だったとは思いも寄りませんでした。
7話「観覧」
7話キャストと作品情報
- キャスト:ソフィア・ブテラ、ピーター・ウェラー、スティーヴ・エイジー、エリック・アンドレ、シャーリーン・イー、マイケル・テリュー、サアド・シディキ
- 原題:The Viewing
- 監督:パノス・コスマトス
- 原作:ギレルモ・デル・トロ
7話の解説レビュー
7話の監督は、ニコラス・ケイジ主演の【マンディ 地獄のロード・ウォリアー】(2018)の監督を務めたパノス・コスマトス、原作はギレルモ・デル・トロのオリジナルストーリー。
キャストは、ザーラ博士役をソフィア・ブテラ、ラシター役をピーター・ウェラー、ガイ役をスティーヴ・エイジー、ランドール役をエリック・アンドレ、シャーロット役をシャーリン・イー、ターグ役をマイケル・テリュー、ヘクター役をサアド・シディキが演じます。
謎の億万長者のラシターは、ラストで未確認生命体に体を乗っ取られ街を彷徨いますが、これこそまさにピーター・ウェラーが本作に起用された理由そのものと言えるでしょう。それというのもラシター役を演じるピーター・ウェラーは、これまでに【裸のランチ】(1992)や【ヴィデオドローム】(1985)などのカルト映画に出演しており、カルト映画の火付け役的存在でもあるのです。
ラシターは最終的に未確認生命体に体を乗っ取られましたが、この結果は決して彼が望んだ形ではありませんでした。確かにラシターは未確認生命体の解明をしたかったのでしょうが、未確認生命体の元の状態ではただの石のようにしか見えず正体不明だったため、ガイら各分野の専門家を家に招いて謎を解明をさせようと目論んでいたと考えられます。
結果として謎の石の正体は判明したもののラシターが体を乗っ取られることは想定外だったというのは、彼がヘクターに助けを求めていることからもわかります。さらに、本作には所々に細かいギミックも隠されているのも特徴的です。
例えば、ラシターが観覧の参加者に出した日本のウィスキーの名前が”原哲夫:北斗の拳の作者”だったり、ウィスキーグラスが【ブレードランナー】(1982)の主人公リックのものと同じだったりもします。ピーター・ウェラーの元ネタを知らないと終わり方に少しモヤっとするかもしれませんが、「観覧」というエピソード自体がコンセプチュアルアートの1つだと言えるのかもしれません。
8話「ざわめき」
8話キャストと作品情報
- キャスト:エッシー・デイヴィス、アンドリュー・リンカーン
- 原題:The Murmuring
- 監督:ジェニファー・ケント
- 原作:ギレルモ・デル・トロ
8話の解説レビュー
8話の監督は、【ババドック~暗闇の魔物~】(2015)で監督デビューを果たしたジェニファー・ケント、原作はギレルモ・デル・トロのオリジナルストーリーです。キャストは、【ババドック~暗闇の魔物~】(2015)のエッシー・デイヴィスと、【ウォーキング・デッド】(2010)でリック役を演じるアンドリュー・リンカーン。
ギレルモ・デル・トロのホラー映画の多くは日常的な物語に超自然的な要素をシームレスに吹き込んでおり、【ギレルモ・デル・トロの驚異の部屋】もその1つです。8話「ざわめき」では、中年夫婦が我が子を亡くした悲しみから幽霊屋敷を通じて立ち直る様子が描かれており、中でも妻のナンシー(エッシー・デイヴィス)は夫にすら心を閉ざすほど心に深い傷を負っていました。
幽霊屋敷での親子の姿や声はナンシーにしか伝わっていませんでしたが、これは我が子を失った現実を受け入れられずにいるという共通点がナンシーにはあったからだと思われます。
実際、幽霊屋敷の元住人の母親は息子を殺害してしまったもののその現実を受け入れられずに自ら命を絶っており、これらの事実が彼女らを繋ぎ止め、ナンシーは元住人の母親と息子の悲しみを客観的に感じ取ることで、自身が抱える闇と重ね合わせて向き合うことができたのでしょう。
ホラーとヒューマンドラマという対極的な物語が上手くまとめられており、ホラーなのに観終わった後には胸がほっこりするという感覚は初めてでした。決してホラーとヒューマンドラマのどちらかに傾くこともなく、きちんと怖さもありつつ人間模様を描いていて、さすがギレルモ・デル・トロだと感心させられました。