事件解説:千秋儀鳳凰像盗難事件
この事件には実は二つの流れがありました。一つには、朝廷の中で唯一太后に対抗することが出来る、古参の忠臣、柳太傅を断罪するために玄機が仕組んだ罠。
そしてもう一つは、その事件を利用して、太后の権威を傷つけようと、悪意のある流言を拡大させた、謎の存在。
これが二つの流れだったことがわかるのは、この鳳凰を盗む大掛かりな仕掛けが、千秋儀を管理する玄機の手引きがないと実現できなかったという事実。
そしてもし、玄機が手引きをしたならばどういう流れにしたかったか、そしてそれが破綻したのはどの瞬間からかという、攪乱した流れから読み取れます。
玄機の狙った筋書き
玄機の目的は、鳳凰を盗むことではありません。彼の狙いはただ一つ、太后の敵である柳太傅を陥れることでした。
玄機は、鳳凰の像が内部の犯行で盗まれた、そしてそのことは大理寺や刑部で調べるのではなく、秘密裏に千秋儀の工房内で盗難に気が付き、調査を行い、犯人を見つけ、黒幕を暴くという流れを狙っていました。
そのため、像が盗まれたことは世間に知られることなく、工房内では知られないといけなかったため、夜の闇に紛れて忽然と消えたということを工房内の上役複数名だけが知るようにしたかったのです。
敢えて、15分おきに巡回したり、出入りを厳しく確認して、外部からの盗難はあり得ないように仕組みます。
その上で、盗まれた翌朝、刑部などには届けず、内々で現場を片付け、偽物の像を置いて時間を稼ぎます。
いずれ何かのきっかけで、将作監の左校の陳飛が内部犯としてとらえられ、黒幕として、師匠である柳太傅が千秋儀の頂上に鳳凰を置くことを嫌って盗ませたと言って弾劾するつもりでした。
その後で隠しておいた鳳凰像を、陳飛の証言で見つけ出し、元の位置に据える。
そのためには、本当の実行犯である常巍の存在は知られてはならないのです。
そのため、玄機は孔明灯の技術を持っている常巍に鳳凰像を盗ませて、それが成功すると常巍の母親に、息子の犯した恐ろしい罪を暴露し、絶望のあまり血を吐いて死ぬように仕向けました。
母の遺灰を巻いた後で常巍が自害する即効性の毒も与えたのかもしれません。
謎の人物の狙い
玄機の狙いが外れたのは偶然からでした。どこまでが偶然で、どこからが謎の人物によって仕組まれたものかはわかりませんが、とにかく、内々で済ませるはずだった盗難事件が、張屏に知られて騒ぎになってしまったのです。
張屏はそれが一大事だとはわかっていなかったので、警備員や工人たちの前で鳳凰の像が偽物だということ、盗まれたことを公言してしまいます。
人の口には戸は立てられず、いつの間にか街中にそのうわさが流れ始めました。うわさを聞き付けた謎の人物は、敢えて火に油を注ぎ噂を大きくします。
子供たちにも、太后を愚弄する歌を歌わせ、街の人々にも太后が皇帝を蔑ろにしているから天が怒ったのだと言わせます。そしてその噂の出所が張屏だと告げることで、一本気な張屏が必ず真実を暴くことが謎の人物にはわかっていたのかもしれません。
また、万一そうならなくても、太后の評判を地に落とすだけでも彼の目的は果たせます。
蘭珏がこれに巻き込まれたのも偶然でした。陳籌の依頼で張屏を庇いに来たことで、太后の罠にかかってしまうのです。太后は犯人が見つかっても見つからなくても、蘭珏が柳太傅を告発する以外に逃げ道を与えません。
結局、張屏の知恵と蘭珏の機知、皇帝の力強い弁舌により柳太傅は難を逃れます。
そして実行犯の常巍の屋敷からは、王硯たち刑部の捜索によって20年前の玄機との書簡がわかりやすく見つかります。
母の遺灰を撒くときに見た、孔明灯の爆発。張屏はそれを見て、夜空が一瞬明るくなり遺灰が飛び散る – 20年前に摩籮村で起きた、空から血の霧が降って来た事件のからくりは、孔明灯で大量の毒を運び上空から火薬で爆発させて撒いたのではないかと蘭珏に話します。
詳しく話を聞きに行こうと玄府へ向かう一同。ところが、そこで待ち受けていたのは玄機が心臓発作を起こして死んだという知らせでした……