事件解説:太后の失踪
伴月楼では新たな芝居がその日 開幕ということで、客も大勢来ていました。
愛し合う二人の男女は離れ離れにそれぞれ異なる世界の片隅で、無間地獄の中で刀や鋸で切られ火で焼かれる、そしてとうとう今宵、仙人が啓示を与えるためにやってきたのです。
舞台の上では、男女の役者が袋に入ったくじをひき、書かれた部屋の客を仙人役として協力して貰い、仕掛けを使って神術のように消えたり現れたりして最後の大団円を迎える手筈でした。(図1)
ところが、ひかれたくじには「牡丹閣」の文字が書かれていました。(図2)
牡丹閣にはその夜、折り鶴で呼び出された太后が来ていました。罠だと知りつつも、鏡湖氏を撃退するために自ら囮となるつもりでいたのです。(図3)
舞台の上に上がり、手を取り合う面を付けた役者と太后。二人はそのまま薄絹の向こうに歩いて行きます。(図4)
影となった姿を時間にして2秒程度、ほんの一瞬だけ黒い布が目隠しします。(図5)
いつまで経っても再び現れない役者たちと仙人役の太后に、客席も護衛の金吾衛達も不安になってきました。舞台の裏手に回ると仕掛けの通路に飛び込みます。(図6)
通路には太后の姿はなく、お面をつけた女性の役者が気絶して倒れていました。慌てて梯子を駆け上る張屏。(図7)
通路にも出口にも舞台の上にも太后の姿はありません。張屏はふと、回転した衝立に気が付きます。鏡湖氏は一度舞台下の通路に降りた後、女性の役者を気絶させました。
本来上がるはずだった梯子は使わず、もと来た道を戻って衝立の裏から、人々が騒然としているなか裏口へ抜けたのです。(図8)
裏口には太后の馬車が止まっていたはずですが、一行が探しに行って見ると馬車の姿はありません。(図9)
馬車の向かった方向を探すと乗り捨てられた馬車があり、中には折り鶴が置いてありました。(図10)
折り鶴の示していた呪禁科へ向かうと、入り口は大理寺が封印したままでしたが、中から女性の悲鳴が聞こえてきました。(図11)
慌てて中に入ると奥には祭壇があり、そこは火の海になっていました。(図12)
太后はひどいやけどを負い、しばらく動けません。鏡湖氏を公に探す張り紙が街のいたるところに貼られました。顔かたちは結局見ることが出来なかったようで、特徴として水鉢を持っている人間がお尋ね人とされ、張屏に危険が迫ります。