ネタバレ感想
物語の構成が秀逸
物語は、クリームと出会った高校時代を振り返るKのモノローグ(日記)から始まります。
理論的には、運動で分泌されるホルモンが悲しみを和らげてくれる。でもこの日は、いくら走ってもその効果が出なかった。理由は分かってる。家族を失ったからだ。
~中略~
ずっと後になってから気づいた。人生で最悪の日に、最愛の人に出会ったことを――。
こうして始まる本作ですが、オープニングを挟んだ直後から物語の視点が変わります。レコード会社イーシャインでは、歌姫A-Linのアルバムに収録するタイトル曲について打ち合わせをしていました。
プロデューサーで作曲家のポーハンが提供した曲は、心に響かないという理由でA-Linに却下されたため、会社に送られてきたデモテープの中から曲を探してみることに。その中のひとつに、A-Linの心を揺さぶる曲がありました。デモテープの送り主は不明でしたが、CDの表面にはこう書かれています。
“クリーム作詞K作曲”
Kとは面識があったというポーハンは、以前の職場で同僚だったと話した後にこう続けます。「彼は3年前に亡くなった」そう、Kはすでに亡くなっているのです。これからKとクリームの物語が進行していくものだと予想していた視聴者にとって、序盤で明かされるこの真実は衝撃的です。けれども、結果的にこの提示は物語をより深いものにしています。なぜなら、すでに亡くなったことが分かっているからこそ、この後に描かれるKとクリームのやり取り全てが脳裏に焼きつくのです。
Kの言葉や表情、クリームに向ける眼差しや笑顔、その全てが。そして、届いたデモテープの文字(クリーム作詞K作曲)さえも悲しみの意味を帯びているように見えてきます。イーシャインの社員によれば、Kの死後にクリームも後を追ったとのこと。だとすれば、デモテープはいったい誰が送ってきたのか。ポーハンたちはそんな疑問を持ちながらも、まずは曲の著作権の手続きをしなくてはなりませんでした。
この件を任された社員のアン・イーチーは、Kが著作権について何か残していないかと遺品を調べているうちに彼の日記を見つけます。そうして、彼の日記を通して過去のKとクリームの物語が描かれていくことになります。
もう1つの悲しみ
*物語の重大なネタバレを含みます。
物語の序盤でKの死を明かしたこともそうですが、本作は最終話に至るまで情報を明かすタイミングが秀逸です。なんでもないようなシーンに思えても、後になって情報を付け加えることでそのシーンが別の意味を帯びる、というような構成テクニックが何度も使われています。
その最たるものが、後半に明かされるクリームの情報でした。まず前半では、日記を通してKの視点で物語が進んでいきます。父親を亡くして母親に捨てられ孤独に苦しんでいた時に、クリームに出会って救われたこと。身寄りのない彼女と一緒に住み始め、家族のようなかけがえのない存在になっていくのと同時に、彼女を愛したこと。
けれども、白血病で余命わずかな自分では彼女を幸せにできないからと、別の男性に彼女を託すことにしたこと。Kの望みは自分の愛を伝えることではなく、クリームが再び孤独で苦しまないようにすることだったのです。クリームには病気のことを悟られないよう振る舞いました。やがて、クリームはKが紹介した歯科医との結婚を決めます。
結婚式の当日。Kはクリームとヴァージンロードを歩いたあと、歯科医に彼女を託しました。式場から出ていくKは、これで自分が死んだあとも彼女は大丈夫だと安堵しながらも、悲しみで涙があふれて止まりません。彼の日記はここで終わっています。K視点で描かれる前半の物語は、彼の深く切なく悲しい愛がつまっていました。けれど見ている視聴者からすると、その愛に胸がつまるのと同時に、“Kのその愛し方を果たしてクリームが望むのか”という疑問もありました。
Kにとってはそれがクリームの幸せだと思っていても、クリームにとっては違うかもしれないからです。彼女はKの死後に病気を打ち明けてほしかったと思うかもしれないし、Kとの残りの時間を恋人として過ごしたかったと思うかもしれません。Kの愛し方は本当にクリームのためになっているのか。その答えは、後半になって描かれることになります。
物語の後半。Kの後を追ったと思われていたクリームが実は生きており、彼女の口から真実が語られました。本当は早い段階から、Kの病気を知っていたこと。Kを深く愛していたこと。歯科医との結婚を決めたのは、Kがそれを望んでいたから。Kが何よりもクリームの幸せを優先していたように、クリームもまたKの望みを優先していたのです。
Kが安心できるように、Kのために。序盤に視聴者が抱くであろう“Kの愛し方を本当にクリームは望むのか”という疑問、その答えは明白です。彼女はKの愛し方を受け入れていました。Kが病気なことも、他の男性に自分を託そうとしていることも、分かっていながらそれを受け入れていたのです。本作はこのように、物語の前半と後半では視点が変わるのですが、クリーム視点を見ると前半とはまた別の悲しみが湧いてきます。
確かな演技力
K視点で描かれる物語では、Kの病気を知らないクリームは歯科医と結婚して幸せになったように見えました。しかし、クリーム視点の真実が明かされたあとで振り返ってみると、Kとの残りの時間を恋人として過ごしたいというクリームの気持ちが見え隠れする瞬間があったことに気づかされます。
たとえば、ウェディングドレスを試着した際に、Kにもタキシードを着させて一緒に写真をとったシーン。それから、結婚式の練習(誓いの言葉)に付き合ってほしいとKに頼んだこと。それらのシーンは、クリーム視点の真実が明かされたあととなっては別の意味を帯びてきます。そして、同じシーンでも、K視点とクリーム視点で違って見えるように演じたクリーム役のワン・ジンが見事でした。
彼女はこの若さで2度も主演女優賞を獲得しているだけあり、クリームが作中で本当に生きているかのような息吹が感じられました。K役のフェンディ・ファンも、言葉にしなくても彼の気持ちがダイレクトに伝わってくるような微細な表情演技が素晴らしかったです。
また、現代パートを牽引するもう1組のカップル(アン・イーチーとポーハン)も、主役2人に劣らない存在感と演技力がありました。彼ら4人の確かな演技力があったからこそ、物語の悲しみがより深く表現され、より深く心を打ったのは間違いありません。また先ほども触れたように、物語の構成力も素晴らしいため普段恋愛ドラマを見ない方にもおススメできる作品となっています。
数々の記録を打ち立てた映画版のリメイク
本作は、同名映画のリメイク版です。
これほどの記録を打ち立てた映画版ですが、もともとはクォン・サンウが主演を務めた韓国の同名映画をリメイクしています。韓国版の監督をつとめたのは、【悲しみより、もっと悲しい物語】の原作者で詩人でもあるウォン・テヨン。
彼は、詩が身近なものとして親しまれている韓国では有名な詩人で、ラブレターの一節に彼の詩が使われることもあるほどだそう。2000年に公開された映画【イルマーレ】(韓国版)では、作中に出てくる手紙の文章作成を担当しています。
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