第2話の解説
事件発生
2006年、ニューヨーク州クイーンズ。モルガン・スタンレーで働くシモナは、副業として出店したレストランでジェリーに出会います。ジェリーはブルックリン地検の警官かつ刑事で、近所の店のコンサルも手掛けているようでした。そのため、よくシモナの店を訪れ、店やプライベートのことまで何かと手助けをしてくれました。やがて2人は交際に発展し、シモナの家族もジェリーを慕っていました。
交際から2年が経ったある日、シモナの元にかかってきた1本の電話が事態を一変させます。それはジェリーの妻から電話で、彼には2人の子供もいると言うのです。すぐにシモナはジェリーを問い詰め、妻の話が本当だったことが発覚したため別れを告げました。
その後、シモナは鍵の返却を理由に家にやって来たジェリーによって拘束され暴行を受けます。ジェリーはシモナの通報により逮捕されますが、母親が保釈金を払って釈放されました。とはいえ、暴行に関する証拠は揃っているため直ちに起訴が決まります。
何としても起訴を避けたいジェリーは、仲間を使って驚きの行動に出ました。ジェリーは2人の仲間に嘘の通報をさせ、シモナを強盗犯に仕立て上げたのです。こうしてシモナは無実の罪で逮捕されてしまいます。最終的にはジェリーの仕業であることが証明され、ジェリーは逮捕されましたが、それはシモナが刑務所で7ヶ月も過ごしてからのことでした。
ジェリーはシモナに対する暴行を始め、偽証や共謀などの罪で合計32年の懲役刑を宣告されました。
アメリカで深刻な性が絡んだ暴行事件
アメリカでは性が絡んだ暴行事件の被害が深刻で、米疾病予防管理センターの2014年9月の報告書によれば、アメリカ人女性の19.3%が被害を受けているとのこと。実に5人に1人が被害を受けていることになり、ありふれた犯罪となっている一方で被害者の64%〜96%は警察に被害を届け出ず、アメリカ国内で最も報告率の低い重大事件でもあります。
さらに、追訴されるのはわずか0.4%〜5.4%、そのうち有罪判決が下されるのは0.2%〜2.8%と低く、このような事件は90%以上の確率で加害者が刑罰を逃れていることになります。被害者は心に深い傷を負うのに対し、ここまで警察への報告率が低いのには被害者の心を折るかのような司法制度に関係があるでしょう。それは、被害者は検事補から無礼な対応をされたり、裁判で加害者と直接対峙し辛い事件の詳細を話さなければならないからです。
事実、米司法省の報告書には、被害者の女性たちが検事補から投げやりな態度を取られたこと、加害者の責任を軽視する発言をしていたことが記されていました。こうした検事補とのやりとりがトラウマになったと語る女性や、別の女性に訴追することを絶対に勧めないという女性たちもいるほど。
ほとんどの犯罪では、証拠が集まるまで警官は被害者を信じて寄り添うのに、性が絡んだ暴行事件となると警察は被害者に対して疑いの目を向けがちです。このような司法制度の構造や実態が、事件の繰り返し断つために勇気を出して立ち上がった女性たちの心を折り、傷つけています。
また、このような事件が増え続けるのには、加害者が無自覚であることに所以しているのかもしれません。それというのも、アメリカで随一の専門家とされる臨床心理士デイヴィッド・リザックの研究で、加害者が無自覚だったことが証明されているのです。
リザック博士が1991年から1998年にかけて行ったマサチューセッツ大学ボストン校の男子生徒1820人に対する研究では、サンプルの6.4%(120人)が事件の加害者と特定され、そのうちの63%(76人)が1人当たり平均6件の事件を引き起こしていました。しかもこの研究は被験者全員が自発的に参加しており、誰も自分を加害者だとは考えていなかったことになります。
リザック博士は、加害者が自分の行動を被害者の視点から考える能力が欠けていることを指摘し、ゆえに加害者は罪の意識がなく喜んで自分の行いについて話すのだと説明しました。
第3話の解説
事件発生
2009年、カルフォルニア州アラメダ。社会福祉局で働くエリックは、祖母サリーの家に帰宅したところ、別居中の妻ローザとその母メイに襲われます。当時、エリックは娘の親権のほとんどを持っており、ローザたちは親権を奪い返そうと必死でした。
ローザたちの計画は、エリックを〇害して物理的に親権を取り戻すというもので、邪魔者となるサリーを先に〇害します。ところが、この日この家にやって来たのはエリックだけではありませんでした。サリーには決まった時間に恋人と電話する習慣があり、この日は連絡がつかなかったことから恋人の息子夫婦が様子を見に来ていました。
1階を捜索していた彼らは、2階にいるエリックの異変を察知して隣人に通報を頼み、ローザたちは逮捕されます。最初は罪を認めなかったローザとメイですが、家宅捜査で次々と証拠が見つかり、有罪判決を下されます。ローザは懲役25年から終身刑、メイは終身刑を宣告されました。
アメリカでは共同親権が一般的
アメリカでは子供にとって最善の利益になるよう離婚の取り決めがされ、父母どちらも親権を望むため、よほどのことがない限り単独親権にはなりません。子供は両親の家を行き来して平等に同じ時間だけ過ごし、両親は離婚後も2人で子育てを継続していきます。なお、国際結婚の場合はアメリカ人の配偶者の合意なく、日本人の妻・夫が離婚後に子供を連れて日本に帰ると、ハーグ条約によって誘拐扱いになります。
現在、日本では離婚したら父母のどちらかが親権を失う単独親権が一般的ですが、これを変更してどちらも親権を持つ共同親権を可能にする民法などの改正案が2024年5月17日に参院で可決・成立しました。これにより公布から2年以内、2026年までに施行される見通しです。
第4話の解説
事件発生
2017年9月20日、ワシントン州エバレット。麻酔科の責任者をしていたアマンダの自宅にて、妹アリシャ(通称:パンキー)が〇害される事件が発生します。この日は、アマンダが夜勤で家に帰れないとのことで、パンキーとベビーシッターがアマンダの3人の子供の面倒をみていました。犯人はパンキーだけを銃〇して逃走し、ベビーシッターと子供たちは難を逃れます。
当時、アマンダはDVを理由に夫ケビンと別居しており、子供たちの親権のほとんどをアマンダが持っていました。その結果にケビンが激怒していたこともあり、アマンダは真っ先にケビンの犯行を訴えるも、ケビンと事件を繋げる証拠はなかなか出てきません。捜査が難航する一方、ケビンはアマンダに対する暴行罪で逮捕されます。かつてアマンダが行っていた2件の告訴が進展し、ケビンは第2級の有罪判決となり、懲役3年を宣告されました。
2021年、警察へのタレコミが決め手となり、ケビンのいとこジェラドン・フェルプスと恋人アレクシス・ヘイルが逮捕されます。実は、タレコミの電話をしたのはヘイルで、彼女の証言によりパンキーを〇害したのはフェルプスだと判明します。フェルプスはケビンからの依頼を受け、アマンダを〇害するつもりが大した確認もせず、ドアを開けたパンキーを撃ち〇したのでした。
フェルプスは取り調べにて、”誰がドアを開けても撃った”と供述しており、ヘイルも彼を止めるどころか犯行を手伝っています。公判は4週間に渡り、ケビンは仮釈放なしの終身刑、フェルプスは約懲役32年、ヘイルは懲役15年を宣告されました。
大人になっても尾を引く”見捨てられ不安”
見捨てられ不安とは、分離不安とも呼ばれており、家族や恋人などから見捨てられることに対する過剰な不安を指します。この見捨てられ不安によって他者に依存したり、破滅的な気持ちになって自傷や自〇未遂を起こしてしまうこともあります。主な見捨てられ不安の特徴は、以下の通りです。
- 人と親しくなるにつれ、「見捨てられる」という感情が湧いて不安になる
- 不安になると相手の愛情が本物かどうかを確認したくなる
- 相手が今何をしているか、誰と連絡を取り合っているかを過剰に気にする
- 自分を優先して注目してくれないと強い怒りが湧く
- 見捨てられるくらいなら初めから誰とも付き合わない方がいいと考えて孤立するなど、健康的な距離感で人付き合いすることが困難
これらはまさにケビンが抱えていた問題と一致しており、ケビンの場合は父から認められなかったことが一因だろうとアマンダは説明しています。実際に大人になっても見捨てられ不安が解消されないのには、親からの愛着形成が不完全、先天的な性格の偏りという2つの原因があると考えられています。
本来なら人は成長の過程で親しい大人との間に安心感や安定感が生まれ、それによって1人で過ごす時間が増えても不安になりません。例えば、かんしゃくを起こした子供は苛立ちを受け止めてもらえることで、素直な感情を出しても大丈夫だと感じます。集団の中にいる子供は、安心して過ごせる家庭などの環境があることにより、外の世界でも勇気を出して行動することができます。
しかし、こうした愛着(子供が特定の保護者に対して抱く情愛的な絆)形成が、ネグレクトや不安定な家庭環境によって拒まれてしまうと愛着形成が不完全になり、見捨てられ不安へと発展してしまうのです。2つ目の原因である先天的な性格の偏りも、愛着形成が不完全なのと同様に不安定な家庭環境、先天的な脳の脆弱などが原因となっています。それゆえに境界性パーソナリティ障がいを引き起こす場合もあり、実際に境界性パーソナリティ障がいの中で見捨てられ不安は中心的な症状の1つです。
見捨てられ不安は自分で出来る治療法もありますが、客観的な目線も必要なので、精神科や臨床心理士の力を借りてきちんとした治療を受けた方がいいでしょう。とはいえ、すぐに治るようなものではないため、根気よく治療を続けることが重要です。
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